大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和26年(ネ)353号 判決

控訴人 京和薬品株式会社

被控訴人 株式会社大同油脂工業所

主文

原判決を取消す。

被控訴人の訴は、これを却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求はこれを棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において、控訴会社は、被控訴会社より買入れて訴外三友株式会社に転売した洗剤の代金につき、同訴外会社より、被控訴会社に対し約三十万円の債権があるから、右洗剤は被控訴会社との直接取引として、その決済をしたい旨の申入れを受けたので、昭和二十五年三月末頃、右三名協議の結果、訴外会社の希望を容れ、被控訴会社から直接訴外会社に対し、右洗剤四千五百個を単価金十八円で売渡したことに改める旨の新契約が成立し、その結果従来の控訴会社の被控訴会社に対する代金債務ならびに訴外会社の控訴会社に対する代金債務は、いずれも消滅するに至つたものであつて、右事実関係を法律的に構成すれば、控訴会社の被控訴会社に対する代金債務の消滅は、更改契約による旧債務の消滅を以て目すべく、従来これを合意解除による消滅と主張したのは、誤りであるから訂正する。従つて右契約が強迫によるものとすれば、訴外会社を含めた契約の当事者全員に対し、取消の意思表示をしなければならないことはいうまでもないから、本訴の口頭弁論において、被控訴会社から控訴会社に対してのみなされた取消は、その効力を生じない。かりにそうでないとしても、右契約後、これに関与した訴外会社の取締役等が、脅迫の疑いで所轄警察署で取調べられ、強迫の影響が止んでから後、被控訴会社は訴外会社に対し、右契約にもとずき直接代金の請求をしているから、ここに法定追認の効力を生じ、もはやその後における取消は許されない。かりに右抗弁理由なく控訴会社に代金支払義務があるとしても、被控訴会社が訴外会社との間の一手販売契約に違反したため、訴外会社は、被控訴会社に対し、約金三十万円の債権ありとの事由に基き、控訴会社が訴外会社に転売した洗剤代金につき被控訴会社との直接決済を主張して控訴会社に対する代金の支払に応ぜず、該代金の回収は事実上不能となつたが、右は被控訴会社の故意又は過失によつて作為せられたものであり、そのため控訴会社は、右代金に相当する損害を蒙つたものというべきであるから、本訴において、右損害賠償債権を以て、被控訴会社の本件代金債権と対当額で相殺する。かりに右抗弁理由なしとするも、本件代金債権は、被控訴会社において国税滞納のため、中京税務署長より差押えられ、同税務署長より昭和二十五年六月十九日控訴会社に対し右差押通知がなされたから、国税徴収法第二三条の一により、本件債権はすでに国に移転し被控訴会社は債権を失つたものというべく従つて被控訴人の本訴請求は失当である。なお控訴人が、従来本件代金債権の消滅は合意解除によるものであると主張していたのは、法律上の見解を表明したに止まり、事実関係そのものの主張は、終始変わるところがないのであるから、いま右見解を改め、更改による債務の消滅を主張したからと言つて、これを以て時機に遅れた新な防禦方法であり、かつそのため訴訟の完結を遅延せしめるものといえないのは勿論であるし、又右が自白の取消でないことも亦当然であると補述し、

被控訴代理人において、控訴人の抗弁は、既に控訴審における証拠調終了後に提出されたものであるから、時機に遅れたものとして却下せらるべきである。かりにそうでないとしても、被控訴会社と控訴会社間の売買契約を一旦合意解除した事実は、被控訴人もこれを認め、自白の効力が生じたのであるから、いまさら控訴人において右主張を任意に撤回し、これに代えて更改の主張をすることは許されない。しかのみならず、控訴人の更改の主張は、真実に反する。即ち、本件は、被控訴会社と控訴会社間、ならびに控訴会社と訴外三友株式会社間の各売買契約を合意解除した上、別個にあらためて、被控訴会社と訴外会社との間で売買契約を結んだのであつて、代金額も、控訴会社えの売却分は、単価金二十円であるのに対し、訴外会社えの売却分は、単価金十八円であつて、両者相違し、単なる更改ではない。従つて、被控訴会社が、控訴会社との間の売買契約の合意解除のみを強迫によつて取消し、控訴会社に対し、復活した代金債権の請求をなすことは、何等法的に支障はない。又本件代金債権が、控訴人主張の如く、滞納国税のために差押えられ、それが解除されていないことは認めるが、右差押の事実は、被控訴会社の債権者たる地位に異動を生ぜしめるわけでなく、従つて、被控訴人の本訴請求の妨げにならない。なお、控訴人の法定追認、相殺に関する主張はすべてこれを否認する。と述べ

た外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

〈立証省略〉

理由

よつて、まず、被控訴人の当事者適格について按ずるに、かりに被控訴人が、控訴人に対し、被控訴人主張の如き売買代金債権を有するとしても、被控訴人の納付すべき国税滞納のため、昭和二十五年六月十九日、右債権につき、中京税務署長より、国税滞納処分としての差押が行われ、同日控訴人に対しその旨通知がなされ、現に差押継続中であることは、被控訴人の認めるところであるから、国税徴収法第二三条の一の規定により、爾後国が本件代金債権の取立権を取得し、被控訴人に代つて債権者の立場に立ちその権利を行使し得るに至つたものであると共に、被控訴人は本件代金請求訴訟の実施権を失い、いわゆる当事者適格を欠くに至つたものといわなければならない。

さすれば、被控訴人の本訴は不適法たるに帰するを以て、これを却下すべく、右と異つた原判決は、不当であるから、これを取消すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条及び第八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉村正道 大田外一 金田宇佐夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例